イオンマイグレーションとは?~comqudaによる受託試験サポート~

概要

イオンマイグレーションが発生すると?

■電極間の短絡による回路故障
■絶縁抵抗の低下
■リーク電流の増加
■機器の誤動作や完全故障
■最悪の場合、発煙・発火事故

発生メカニズムの詳細解説

1.基本的な化学反応

銀(Ag)を例とした場合の化学反応式は以下の通りです。

陽極での反応:
Ag → Ag⁺ + e⁻(銀の酸化・イオン化)
2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻(水の還元)
陰極での反応:
Ag⁺ + e⁻ → Ag(銀イオンの還元・析出)

2.デンドライト形成の段階

  1. 水分吸着段階:基板表面に水分が付着し、電解質層を形成
  2. 金属溶解段階:陽極で金属がイオン化して溶解
  3. イオン移動段階:金属イオンが電界により陰極方向へ移動
  4. 析出・成長段階:陰極で金属イオンが還元され、デンドライトが成長
  5. 短絡形成段階:デンドライトが電極間を橋渡しし、導電路を形成

実際のデンドライト成長の様子

動画説明:この動画は実際の製品に用いて意図的にイオンマイグレーションを発生させ、デンドライト成長の様子を撮影したものです。水滴が付着し電圧が印加された状態で、金属電極から樹枝状の導電路が徐々に形成される過程をご確認いただけます。このような現象が進行すると、最終的に電極間の短絡を引き起こし、機器故障の原因となります。

主な発生原因

1.高湿度・高温環境

湿度は最も重要な要因の一つです。相対湿度85%以上の環境では、基板表面に水分子が吸着し、電解質層を形成します。この水分が金属イオンの移動媒体となるため、湿度が高いほどイオンマイグレーションのリスクが増大します。

温度の上昇は化学反応を加速させ、イオンの拡散速度を向上させます。一般的に、温度が10℃上昇すると反応速度は約2倍になるとされています。

注意:結露が発生する環境では、局所的に100%の湿度となるため、特に注意が必要です。
温度変化の激しい環境や、車室外搭載製品では結露対策が必須となります。

2.電圧(電位差)

電極間の電位差がイオンの駆動力となります。電界強度が臨界値を超えると、急激なデンドライト成長が始まります。一般的に、以下の電圧範囲でリスクが高まります。

電圧範囲リスクレベル主な用途例
5V未満デジタル回路、センサー
5~50Vアナログ回路、電源回路
50V以上高電圧回路、パワーデバイス

3.金属の種類とイオン化傾向

使用される金属の種類により、イオンマイグレーションの発生しやすさが大きく異なります。

金属リスクレベル特徴
銀(Ag)極めて高最も発生しやすい金属
鉛(Pb)従来のはんだに含有
銅(Cu)中〜高基板配線の主要材料
スズ(Sn)鉛フリーはんだの主成分
金(Au)貴金属、高信頼性用途で使用
白金(Pt)極めて低最も安定、特殊用途のみ

試験・評価方法

イオンマイグレーションの評価には、加速試験により短期間で劣化現象を再現し、製品の長期信頼性を予測する手法が用いられます。

主要な試験規格

規格名試験条件例製品例
IEC 60068-2-385℃/85%RH、連続印加一般電子部品
IEC 60068-2-66130℃/85%RH、2.7気圧HAST(高度加速試験)
JPCA-ET01-200785℃/85%RH、500時間プリント基板
JEDEC JESD22-A110110℃/85%RH、168時間半導体パッケージ

高温高湿試験

  • 温度:85℃±2℃
  • 湿度:85%RH±5%
  • 印加電圧:定格電圧または規定電圧
  • 試験時間:500〜1000時間

結露サイクル試験

  • サイクル条件:-10℃→85℃(95%RH)の繰り返し
  • 結露時間:各サイクルで2〜4時間の結露状態

イオンマイグレーションによる故障は、単なる製品の不具合を超えて、安全性に関わる重大事故につながる可能性があります。特に、医療機器、自動車、航空宇宙機器などの分野では、人命に関わる重大な影響を与える場合があります。そのため、イオンマイグレーションの発生を見逃すことのない信頼性評価が必要です。

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