LIN通信の基礎 ~comqudaによる受託試験サポート~
概要
LIN(Local Interconnect Network)は、自動車の車載ネットワークにおけるコストダウンを目的として開発された通信プロトコルです。欧州の自動車メーカーや半導体メーカーを中心としたLINコンソーシアムによって策定され、現在ではISO17987として国際規格化されています。
LIN通信は、CANバスのサブネットワークとして位置づけられており、パワーウィンドウ、ドアミラー、電動シート、照明制御など、主にボディ系制御システムにおけるデファクトスタンダードとして広く採用されています。
LIN通信の基本特徴
1. シンプルなネットワーク構成
- マスター・スレーブ方式:1台のマスターノードと最大15台のスレーブノードで構成
- シングルワイヤ通信:1本の配線で通信が可能(従来の2本配線から削減)
- 最大通信距離:40メートル
- 通信速度::最大20kbps(低速だが十分な性能)
2. 低コスト設計
- シンプルなハードウェア構成:高価なCANコントローラが不要
- 発振子の簡略化:水晶発振子からRC発振回路への変更が可能
- 部品点数削減:トランシーバもコンパレータ方式で低コスト化
3. 通信方式の特徴
- UART通信:多くのマイコンに標準搭載されている通信方式を採用
- スケジュール制御:タイムトリガー方式により通信の衝突を防止
- 自己同期機能:スレーブノードが自動でクロック調整を実行
LIN通信のメリットとデメリット
メリット
- 大幅なコスト削減:CANと比較して部品コストを約50%削減可能
- 開発効率の向上:シンプルな仕様により開発工数を削減
- 配線の簡素化:ワイヤハーネスの重量とコストを削減
- 標準化による互換性:ISO規格により異なるメーカー間でも互換性を確保
デメリット
- 通信速度の制限:CANの1Mbpsに対しLINは最大20kbps
- リアルタイム性の制約:スケジュール制御のため即座の通信は不可
- 信頼性:CANと比較して高い信頼性が求められる用途には不適
- ネットワーク規模:最大16ノードの制限
LIN通信のフレーム構造
LINメッセージは以下の構造で構成されます:
ヘッダ部分(マスターが送信)
- Break Field: フレーム開始を示すシグナル(13ビット以上のドミナント)
- Sync Byte Field: 同期用データ(0x55)でクロック調整を実行
- Protected Identifier Field: ノードID、データ長、パリティで構成
レスポンス部分(指定されたノードが送信)
- Data Field: 実際のデータ(0〜8バイト、Revision2.0以降)
- Checksum Field: エラー検出用チェックサム
CANとLINの比較
項目 | CAN | LIN |
---|---|---|
通信速度 | 最大1Mbps | 最大20kbps |
配線 | 差動2線式 | シングルワイヤ |
ノード数 | 多数対応 | 最大16ノード |
コスト | 高 | 低 |
用途 | エンジン制御等 | ボディ系制御 |
信頼性 | 非常に高い | 中程度 |
LIN通信の具体的な活用事例
1. ドアミラー制御
- ヒーター制御
- ミラー角度調整
- 電動格納機能
2. ドアミラー制御
- ミラー角度調整
- 電動格納機能
- ヒーター制御
3. 電動シート制御
- シート位置調整
- ランバーサポート
- シートヒーター制御
4. 室内照明制御
- ルームランプ
- アンビエント照明
- インストルメントパネル照明
LIN通信のバージョンと規格
主要なRevision
- LIN 1.3: 日本で主に採用された初期バージョン
- LIN 2.0/2.1: 欧州で主流、診断機能やトランスポート層を追加
- ISO17987: 2016年にISO規格として標準化された最新仕様
現在の標準化状況
現在、LINはISO17987として完全に標準化されており、自動車業界での採用がさらに加速しています。
将来的な改訂に向けて議論されています。
LIN通信の機能
エラー検出機能
LINでは以下の6種類のエラー検出機能を提供します:
- ビットエラー: 送信データとバス上のデータの不一致
- チェックサムエラー: データ破損の検出
- IDパリティエラー: フレームIDの破損検出
- ノーレスポンスエラー: スレーブの応答なし
- シンクフィールドエラー: クロック同期の失敗
- フィジカルバスエラー: 物理的なバス障害
スリープ・ウェイクアップ機能
スリープモード
- 消費電力削減のため全ノードがスリープ状態に移行
- マスターからの指示またはバス無通信(4-10秒)で自動移行
ウェイクアップ
- ウェイクアップシグナルで全ノードを復帰
- 150ms以内にマスターが通信を開始する必要
今後の展望
次世代車両への対応
- 電動車両(EV/HV): バッテリー関連システムでの活用拡大
- 自動運転技術: センサー統合における低コストソリューション
- コネクテッドカー: 車内ネットワークの階層化における重要な役割
技術進化
- 車載イーサネットとの連携強化
- **機能安全(ISO26262)**への対応強化
- サイバーセキュリティ対策の組み込み
導入検討時のポイント
適用判断基準
- 通信速度要件: 20kbps以下で十分な用途
- コスト要件: 低コスト化が重要な案件
- ノード数: 16ノード以下のネットワーク
- リアルタイム性: 厳格なリアルタイム制御が不要
実装時の注意点
- EMC対策: 適切な配線とグラウンド処理
- 終端処理: バス終端の適切な設計
- 電源管理: スリープ・ウェイクアップ機能の実装
- 診断機能: 保守性を考慮した診断仕様の検討
まとめ
LIN通信は、自動車のボディ系制御において不可欠な通信プロトコルとして確固たる地位を築いています。シンプルさと低コストを実現しながら、必要十分な機能を提供するLINは、今後も自動車の電子化進展において重要な役割を担い続けるでしょう。特に電動車両や自動運転車両の普及に伴い、コストパフォーマンスに優れたLIN通信の需要はさらに高まると予想されます。適切な用途での採用により、車両全体のコスト削減と品質向上を同時に実現できる技術として、LIN通信への理解と活用がますます重要になっています。
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